競売で落札した所有者

裁判では、黒木は二点の主張をしている。一つは賃借した当時、ビルの所有者が誰であるかを知らなかった。二つ目は九八年七月二十八日頃までにビルを退去した。あくまで善意の第三者の借り手であるという主張だ。しかし、黒木の主張は認められなかった。東京地裁は、スーパー・ステージに対して建物の明け渡しと、「平成九(九七)年四月二十八日から、平成十(九八)年七月二十八日まで1ヵ月五万円の割合による金員(合計七十五万円)を支払え」という判決を下した。金額が少なかったのは、黒木が和解に応じたからである。

パブルの時代に、不動産ビジネスを浸食した暴力団が資金源としていたのが「地上げ」だった。ビル用地などを買い漁る開発業者の先兵として暗躍した。バブル崩壊後「地上げ屋」の出番はなくなったが、代わって新しい稼ぎのネタが見つかった。地価の下落で、返済が滞り大量の不良債権が発生し、物件が競売に出されるようになったからだ。それに目をつけたのが「占有屋」だ。競売に付されそうな物件に賃借人として入居仁不法に占拠するのだ。暴力団関係者が借り手となっている物件は、キズ物として価値が下がる。競売で落札した所有者は賃借権を外すために法外な立ち退き料が必要になる。

「立ち退き料はマンションの一室なら百万円から一千力円。土地なら、不法占拠された土地に建てられたプレハブ住宅の撤去費用として二千万円。あとは取引金額の五%が相場」(不動産会社幹部)この間、又貸しして賃料を取れば、立ち退き料と合わせて多額の金を手にすることができる。黒木がビルを賃借した期間は九六年八月から九八年十二月までの一年間。月の家賃は三十八万円だから、合計九百十二万円を支払った計算になる。黒木が、もし、善意の第三者だとしても、ベンチャー起業家としては、致命傷になりかねない汚点だろう。

社長の大神田も選一い噂に包まれた。九九年十月十五日、警視庁と静岡県警の共同捜査本部は電磁的公正証書原本不実記録、同供用の疑いで、東京都渋谷区に本社かおる自動車販売会社パパイノエール社長の村田和隆を逮捕した。同社からベンツを購入した千葉県我孫子市の動物病院の経営者から「品川ナンバーが欲しい」と頼まれ、ベンツを同社名義に偽って登録した疑いだ。いわゆる「車庫飛ばし」である。同社は、捜査本部が広域指定暴力団フロント企業とみなしている会社だ。暴力団政治団体が使用している車十数台も同社名義になっていた。

この時、自宅の家宅捜索を受けたのが、九四年の設立時から取締役を務めていたプロ野球読売巨人軍の内野守備コーチの篠塚利夫だった。篠塚は「役員として名前を貸しただけで報酬もない。だが、軽率だった」と釈明したが、球団は謹慎処分を科し、その後減給処分とした。当時、社会面を賑わした事件だが、その自動車販売会社パパイノエールの社員だったのがリキッド社社長の大神田だ。九四年から九五年にかけて在籍していた。