ビル「占有」の手先に

九九年三月三十一日、束京地裁で建物明け渡し請求事件の判決があった。主文は「原告に対し、被告株式会社スーパー・ステージは建物部分を明け渡せ」。スーパー・ステージ敗訴の判決である。この事件は各地で発生している「占有屋」が起こした事件だ。「占有屋」とは、倒産した企業が所有する土地建物を不法に占有して、法外な立ち退き料を要求する輩のことだ。バブル崩壊後、広域暴力団の有力な資金源となった。暴力団関係者とともに、スーパー・ステージが明け渡し訴訟を起こされたのだ。裁判資料に基づくと、事件は次のようなものになる。

舞台は、東京港区南青山の高級商店街。青山通りとスタジアム通りが交わる神宮前交差点近くの地下一階、地上八階のビルだ。その土地(八十平方メートル)とビルー棟を所有していた不動産会社が倒産した。ここからが占有屋の出番である。九四年八月に、「空室になった」との情報を得ると、ビルまるまる一棟分の賃借権譲渡契約を結んだ。市中の金融業者が倒産した不動産会社と賃借契約を結んでいたものを、その権利の譲渡を受ける格好にした。こうすればビルー棟を占拠し、これを第三者に賃貸して賃料を稼ぐことができる。

しかし、九七年四月、競売を申し立てていた金融会社が自己競落して、所有権の移転登記をしてビルの新しい所有者になった。東京地裁の判決では、ビルを占拠した側か主張した賃借権、留置権ともに否認された。留置権とは、借り手側に、貸し手に対する債権が発生した場合、その債権の弁済が済むまで、その物件(この場合はビル)を自分の元に置いておく権利がある、という主張だ。九四年秋にビルの一階で火事があり、火災による改修工事費などを立て替えて払ったので、留置権が発生したと主張したのだ。

賃貸借期間は二年間、賃料一ヵ月百万円、保証金二千万円の約束で貸借したと被告側は主張したが、地裁は「競売物件であることを認識して締結された賃貸借の条件としては、賃料、保証金ともに被告にとって危険きわまりない取引であり、著しく不合理であると、借り手側の主張を退けた。

留置権についても同様。『火災があった』との主張については、これを認めるに足る証拠は被告本人の供述のほかになく、被告本人の供述は信用することはできない」とした。ビルを占有した側の全面敗訴である。スーパー・ステージと同社のオーナーの黒木はこの事件にどう関わっていたのか?占拠した側はビルを第三者に賃貸して賃料を稼いだが、この時、借りていたのが黒木だった。「ジュースージュース」というスタンド式の飲料店を経営していた。払っていた家賃は月額三十八万円だったという。