地価税の誕生

資産課税の第二のタイプは、資産保有に対する税金である。資産保有自体から様々なサービスつまり効用が生み出されるし、かつそれを反映した経済力、担税力を資産保有者はもつことになる。課税する根拠は十分に存在すると云えよう。

しかしすべての種類の資産を包括した形の資産保有税は、今日ごく例外的にしか存在しない。日本では現在、不動産のみを対象としているが、国税として地価税、そして地方税として固定資産税や特別土地保有税がある。このうち地価税は、1992年1月1日から導入された土地保有税でわが国税制で最も新しい税金である。

地価税は、1980年代後半に発生したバブル経済による地価高騰を沈静化させ、土地神話を打破する政策目的で、恒久的な税制として創設された。戦後、急速に拡大した日本経済はたえず潜在的に土地に対する根強い需要を持ち続けてきた。このことから地価は絶対に値下りをしないという上地神話が醸成され、人々は最も安全有利な資産運用として土地保有に執着した。

つまり上地は本来の使用価値とは別に、資産価値をもちその売買は投機の対象とされるにいたった。そしてまた、土地を「持つ者」と「持たぬ者」の間に、修復できぬほどの大きな資産格差を発生させ、社会的不公平を著しく増大させた。サラリーマンが一生働いても持ち家を取得できないという現象は、明らかに不健全である。

地価高騰の原因として、上地投機を助長した金融緩和やずさんな土地利用規制が挙げられるが、もう一つ土地に対する税制の甘さが注目された。とりわけ土地保有に対する税負担の軽いことが、保有コストを低め、土地の有効利用を阻害し、かつ投機目的のために土地を長期に保有することを可能にした。そこで地価対策の一環と七て土地の保有コストを高め、その資産価値を縮減するために、土地保有税の強化が有力な政策手段として登場してきた。

当時、土地保有税とみなしうるものとして、地方税の中に固定資産税と、特別土地保有税が存在していた。しかし後で述べるように、これらの税金は保有税としてほとんど機能しておらず、別途新しいタイプの土地保有税の創設が必要となった。この新税の創設のために、非常に重要な役割を果したのが1989年に成立した土地基本法であった。

土地基本法は、土地を公共財と位置づけ公共的性格を有する土地の保有に対し適正な税負担を求めることを正当化した。かくして誕生したのが新土地保有税としての地価税である。地価税は、土地の資産としての有利性を縮減するために土地の資産価値に応じて税負担を求めるものとされた。つまり課税により、土地の保有コストが増大し、その結果コスト意識が高まり、土地の有効利用を促進させ地価を低下させると期待された。

具体的に個人または法人が毎年1月1日において所有する土地等(借地権も含む)を、相続税評価額で評価し、税率0.2%を適用して、税額が算出されることになった。地価税は土地の資産としての有利性を縮減する狙いから、ある額以上の土地価額を対象とすればよい。そこで基礎控除10億円(個人、中小企業の場合15億円)、あるいは単価控除が認められることになった。

「新税は悪税」といわれるように。地価税の創設にあたり利害関係者の反対も強かった。その結果、税率や課税最低限で、当初予定されたより大幅に後退を余儀なくされた。しかし土地神話の打破をスローガンに導入された地価税は、バブル崩壊後に発生した地価引下げにそれなりに効果を発揮したものと思われる。

長引く不況下で、関係業界から地価税の廃止が強く主張されている。しかし固定資産税など既存の土地保有税が本来の役割を果しえない以上、地価税を強化こそすれ、弱体化させる方向は正しい政策判断ではない。土地神話の復活を待望するなら別な話だが、今後とも土地保有税の役割は日本経済にとってきわめて重要である。