EU管内での通貨加盟の拒否

EU加盟賛成者も、こうしたことは十分にわかったうえで賛成しているわけで、見方によれば″苦渋の選択″だったともいえる。EU内部でも、北欧がEUになだれ込むことに危惧を持っている向きもある。そのひとつには社会保障のレベルが他の南欧諸国などにくらべて相当に高いことからEU内のアンバランスを生じないかという点と、もうひとつは、EUのなかに北欧グループを形成するのではないかという見方もある。北欧がこれまでに蓄積したレベルを維持しようとして″党内派閥″を形成するのではないかと恐れている面もある。

しかし、いずれにしても、これからの成熟国家間では、もはや一人勝ちは許されないということになるのではないだろうか。スウェーデンもかつてのような繁栄は期待できなくなり、ヨーロッパの一小国になる可能性が強いように思う。少しさびしい気もする。スウェーデンのリフォームは、それなりに成功している。何よりも医療費のGDPに占める率が、かつてはアメリカと同じぐらいだったのが、押さえる形になり、いまではアメリカの半分になっている。とくに一九八三年以降下がっている。

スウェーデンのリフォームはかなりシビアーなものである。これらについては、すでに説明したとおりであるが、これらを実施したことについて、各団体等はどのように考えているかを一九九六年夏に取材した。スウェーデンの医療改革に関する調査の結果は、全般的にいって、スウェーデンでさえ、全体的にものを見る人は少なく、自分の属している団体からみてどうなのかを考える人が大部分だった。

ただ、スウェーデンの人たちの政府にたいする信頼は日本よりも強いといえる。また、北欧の社会保障は、そもそもは、女性の社会進出によって、保育所や児童への対策などを行なわざるを得なくなり、一方、婦人の社会進出によって、婦人の税金が支払われるというメリットも国にとってはあった。現に既婚婦人の五人に四人は働いている。このため、政府はどういう事態になっても、社会保障に大ナタをふるうことはあるまいという見方をしている国民が多い。

ただ、国民にとって不安なのは、EU加盟によって、財政赤字が多いとEU管内の通貨加盟が拒否される点だ。そのために社会保障に政府予算が切り込む恐れを抱いている。EU加盟にノルウェーが反対したのもその理由だし、スウェとアンは加盟に賛成したといっても過半数をわずかに上回る程度で、もう一度賛否を問えば、加盟に反対が過半数を超えるだろうといわれている。