今年も「調整局面」迎えた原油

9月末に向けて反発の気配は出てきたものの、代表的な国際商品である原油は7月中旬に記録した史上最高値から一時2割以上も下落した。今回の調整局面を見ると世界の物価や景気動向に大きな影響を与える『原因』と、景気動向を先読みする『景気の先行指標』という原油の2つの側面が再認識できる。

米同時テロの直後、01年11月19日に付けた1バレル16.70ドルの安値(以下すべて期近限月のザラ場ベース)を底に長期の上昇基調に入った米原先物は03年から毎年、20%以上値下がりする調整局面を迎えている。いずれも米国を中心とした世界景気の先行きに不安が広がり、ヘッジファンドなど動きの速い投機マネーが売り姿勢に転じた局面だ。

(1)03年2月27日(39.99ドル)→4月29日(25.04ドル)=下落率37.4% イラク戦争をにらんで上昇していた反動に重症急性呼吸器症候群(SARS=サーズ)の影響が追い打ち。米国にはデフレ警戒感が強まった場面。

(2)04年10月25日(55.67ドル)→12月20日(40.25ドル)=下落率27.7% 景気に下振れ観測が残る中、米連邦準備理事会(FRB)は6月末から約4年ぶりの利上げに動く。12月にはニューヨーク市場で投機家が1万7000枚(1枚は1000バレル)以上売り越す。

(3)05年8月30日(70.85ドル)→11月18日(55.40ドル)=下落率21.8% 米国のハリケーン被害を材料に急騰するものの、ガソリン高で米景気に先行き不安。中国の買いも細る。11月の投機家売り越しは5万6000枚台に膨らむ。

(4)06年7月14日(78.40ドル)→9月25日(59.52ドル)=下落率23.9% 金利引き上げ効果とガソリン高の影響で米景気が想定以上に落ち込む懸念が広がった現在の局面。

05年には1カ月の短期ながら4月29日の58.28ドルから5月20日の46.20ドルまで20.7%下げた場面もあり、これを含めると今年7月からの調整局面は5番目となる。

昨年から当面の原油供給が足りない需給逼迫(ひっぱく)感はない。むしろ在庫は増え、過剰感がある。ただ需要の伸びに供給増がなかなか追いつかないため供給余力が世界需要の1―2%まで減り、主要産油国に何らかのトラブルが起きれば「今は足りていても将来は分からない不安感」が投資マネーを集めていた。しかし金利引き上げ効果に加え、ガソリンの価格高騰が「原因」となって米国を軸にした世界景気が急減速し、ブーメランのごとく原油需要に波及すれば「将来の供給不安」が後退して市場の目は「足元の余剰」に向く。

だが原油のみならず、商品市況が景気動向を先読みする側面は、時に景気そのものも調整してしまう。市場が景気の急減速→需要後退を気にする一方で、実際の需要は強い。米国のガソリン需要は9月22日までの4週平均が日量938万バレル。ハリケーン被害の中で価格が高騰していた昨年の反動もあるが、前年同期の水準を6.2%も上回る。米ゴールドマン・サックスは景気減速を先読みして高値修正が進むため「減速が現実になっても価格下落による需要喚起効果の方が上回る」と予想する。

実際、9月末に向けては原油とガソリン価格の下落でインフレ懸念が後退、米国の消費者信頼感指数の改善などを見て米株価は過去最高値を一時更新した。住宅市場の行方など依然として予断は許さないが、原油価格が景気の急減速を先読みして下落することで、市場が懸念していたような景気悪化を調整してしまった側面はある。

今年も『調整』で終わりそうな原油価格の下落だが、値上がりが永遠に続かないのも事実。問題は終着点がクラッシュか、ソフトランディングかである。建設機械輸出の活況や航空機向けの軽量新素材、ハイブリッドカーなどの省エネ技術普及など世界景気は原油高に支えられている部分も少なくない。原油価格が急落すれば、こうした産業活動にも急ブレーキがかかる。早すぎる上昇とともに、急激な下落も世界景気には悪影響を及ぼす。