より広い現実への適用

このようにして計算されたパス係数は、二つの変数が完全な相関関係にあるときは、プラス一、全く関係のないときはゼロという数値になるように作られている。たとえば図における高校の成績と学歴とのパス係数は〇・三四五と記されている。このことは、両親の社会経済的地位を統制した場合、高校の成績が学歴という変数に、中程度の影響を与えているということを示している。しかも高校の成績は職業には○・○五九とほとんど影響がない。

このようにしてこのパス解析は、アメリカの白人男子においては高校の成績と、両親の社会的地位によって学歴が影響され、さらに学歴が職業的地位の高低に、相当強い影響を与えているという関係を明らかにしている。さらに両親の社会的地位の、高校の成績に対する影響は〇・一二二と少ない。また高校の成績という本人の業績的要因の方が、両親の地位という非業績的要因よりやや強い力で、学歴を決定している。このようなパス解析の実例を示す図は以上のような方法でアメリカ社会の、業績主義的な傾向を明らかにしているということができよう。

私はサーヴェイーリサーチの方法の輪郭を明らかにすることに努力してきた。ここで論じてきたのは結局サーヴェイーリサーチの分析に代表される数学的操作の方法が、実験的方法の論理を、より広い現実に適用しようとした試みだということであった。実験的方法は実験群と統制群とを人為的に作って、第三の変数を統制しようとする。それは情況を人為的に統制して、因果関係を実証しようとする方法であった。

これに対して数量的方法は、情況の統制ではなく、集められたデータのコンピュータによる解析という方法を通じて、第三の変数群を統制しようとする方法であった。これは概念的あるいは数学的操作によって、第三の変数群を統制して、因果関係の推測を行おうとする方法である。読者のなかでこのような方法を現実に適用する人は、まだ少ないかもしれない。しかしこれからはこのような方法が、ますます広く採用されることになるであろう。

われわれは今からその準備をしておかなければならない。それだけでなくたとえこのような方法を自分で使用しなくても、その方法を理解することは、数量的な研究リポートを理解するために必要である。そしてこのような、厳密な数量的方法の論理を理解することは、たとえ数量を使用しなくても社会的事件を科学的な方法によって理解するために、大いに役立つことなのである。