驚天動地の仕事

こうして平和球場を全面建て替え、三万人余りを収容する多目的スタジアムを四〇億円かけて新設の株式会社によって建設し、市がこれの寄付をうけて、その代償に、株式会社にプロ興行等への専用利用権を与えるという考えがまとめられた。人工芝を採用するため、プロ使用以外をフルに活用できるので、従来使用していたアマチュア野球にも、以前と同等以上に使用させることも可能になっている。特徴的なのは、野球をするときは扇形に開いていた六千席の弧状の移動席が、三六メートル移動して平行になり、球場は矩形に近くなる。アメリカンフットボールなどはこの形で行なう。ピッチャーズマウソドも、上下に昇降できるので、下に下げればその上に蓋をかぶせ、平坦にして使用することも可能である。

移動席があるため、球場は完全な真円形になっており、バックネット裏が一番高く外野へ向けて低くなっている。外野方面は北側になるので、なるべく公園への日照を遮らないように、高さを一一メートルにおさえ、抵抗感もなくしたのである。こうした基本的な考えが市会全員協議会にはかって了承されると、問題はいよいよ株式会社設立のための資金集めであった。一シート二五〇万円という数字で集まるとは思うが、すべてはやってみなければわからない。

万一、集まらない場合の手も考えておかなくてはならない。株式会社設立のための発起人会がもたれ、準備事務局が置かれたが、地元の銀行、新聞、テレビなど、関係各社の寄り合い所帯で、どこまで機能できるか怪しい。これをたんとか支援しなければならないが、公務員を株式会社に出向させることは法令上どうしてもできないという。いったん市をやめなければならないのである。それではかわいそうだ。そこで一計を案じ、「横浜スタジアム建設協力会」という認意法人をおき、この事務所を株式会社設立の準備事務局の隣りにおく。協力会に市の職員を派遣して、会社設立についての協力を行なうという方法である。

この協力会に行く職員七人の侍が選ばれた。いままでの役所の決まった仕事からすれば、これはまったく驚天動地の仕事であったろう。とにかく駈けずりまわらなければ金は集まらない。いまでは伝説的であるが、辞令をうけたときに、七人の侍はまず靴を二足買ったそうである。これを履き潰すくらいに歩きまわればなんとかなるだろうということであった。一方では、青年会議所に協力を求めることにした。野球という分りやすい問題であり、地域づくりのテーマとしては格好であった。それに青年会議所は、若さと熱意でやってくれるだろう。この際、大手は相手にせず、こまめに株を集めようというのだから。