私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律

独占禁止法(15条)は、①一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合および②不公正な取引方法によるものである場合に合併を禁止しています。②はほとんど問題となることがなく、実務上重要なのは①の「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」に該当するかどうか(競争の実質的制限の有無)です。合併、事業譲渡、株式取得などによりもたらされる企業の結合に関する独占禁止法上の規制を、一般に企業結合規制(mergercontrol)と言います。

独占禁止法に抵触する合併についての措置・手続。独占禁止法に違反する合併について、正式な法的ルートで公正取引委員会がとる手続やこれを当事者が争う手続は、以下のとおりとなります。公正取引委員会は、合併が独占禁止法に違反すると認めた場合には、合併当事会社に対し、違反の状態を解消するために必要な措置をとるよう命じることができます。これを排除措置命令と言います(独禁法17条の2)。合併当事会社は事前に通知を受け、意見を述べ証拠を提出する機会を保障されます。その上で発令された排除措置命令に不服のある合併当事会社は、公正取引委員会に対し、審判手続を請求することができます(独禁法49条6項)。

公正取引委員会の判断は審決の形で下されます。審決に不服のある場合、東京高等裁判所に審決取消訴訟を求めることができます(独禁法77条〜)。なお、このような事後的な審判制度自体が現在改正論議の対象となっており、平成22年の通常国会に審判制度の廃止、排除措置命令等に対する抗告訴訟を東京地方裁判所を専属管轄として提起できる制度を盛り込んだ法案が提出され、閉会後も継続審議となっています。わが国では、合併に関する企業結合規制について違反事件として排除措置がとられた例としては、昭和44年の富士製鉄・八幡製鉄による合併(新日本製織が誕生)に関する正式の審決があるのみです。それ以降今日に至るまで、合併規制は実務上もっぱら後述する事前相談制度(事前届出のさらに前に合併を予定する当事会社が任意に行う相談制度)を通じた行政指導により行われ、独占禁止法に違反するような合併は事前相談によりクロの判定がなされた段階で未然に防止されてきたと言えます。

競争の実質的制限の有無を合併の効力発生前に公正取引委員会が審査できるように、一定の規模以上の会社間の合併については、合併当事会社による、公正取引委員会に対する合併に関する計画の事前届出が義礎づけられています。ここで言う「一定の規模以上」の合併とは、2社の日本企業間の吸収合併を例にとれば、一社の国内売上高合計額が200億円超、もう一社の国内売上高合計額が50億円超の当事者同士の合併を指します。この「国内売上高合計額」は、簡潔に言えば、その会社の国内売上高と、その会社の属する「企業結合集団」内のすべての企業(一番上の親会社から末端の子会社まで)のうちその会社以外のものの国内売上高の総額を指します。

平成22年1月施行の独占禁止法改正前は、国内企業は資産基準・外国企業は国内売上高基準というように、届出の要否を画する規模の要件が異なっていましたが、今般の改正により、各定義規定について一定の整理が施された上で、国内外の企業一律に企業グループ単位で見た国内売上高基準に要件が揃えられたのです。実際に届出要件を満たすか否かを判断するに際しては、公正取引委員会規則に照らして詳細な検討が必要です。届出が公正取引委員会に受理されてから30日を経過する日までは、当事会社は合併を実行することはできません(待機期間、独禁法15条3項、10条8項)。ただし、①一定の取引分野における競争を制限することとはならないことが明らかな場合で、かつ、②待機期間を短縮することについて合理的な理由がある場合には、原則として待機期間の短縮が認められます。