典型的なベンチャー起業家

「大神田はダミーでしょう。実権は黒木が握っている。それなのに上場直前に突然、社長を交代した。日興の栗戸と関係があるのでは、という憶測を招いたのは事実です」(店頭市場の関係者)黒木は上場直前になって何故、社長の座を降りたのか?証券業界が不審に思うのは無理もない。リキッド社の大株主の持ち株比率は、スーパー・ステージ四四。一%、光通信九・二%、リキッドオーディオーインク六・九%、伊藤忠ファイナンス六・五%、伊藤忠商事二・四%、NTTデータニ・二%(九九年十二月時点)となっている。

リキッドオーディオーインクは不正コピーを防ぐ音楽データの暗号化技術に定評かおり、ネット利用者の聞では知名度の高い会社だ。しかし、出資比率はわずか六・九%。社名からは米リキッドオーディオーインクの日本法人を連想させるが、実際は筆頭株主過半数に近い株式を保有するスーパー・ステージの子会社だ。社長の大神田はスーパー・ステージの元社員、取締役の西牟田博文はスーパー・ステージの元取締役だ。

リキッド社のオーナー、黒木も学生起業家である。神奈川県出身で慶応大学文学部に在学中に、学生で構成する企画サークル「パレットークラブ」の代表を務めた。パレットークラブはパーティーの企画も手掛けた。九〇年に卒業後、この時の経験を生かしマーケティング事業の「エヌ・ジー・エル」を旗揚げした。女子大生約十二万人、OL約十三万人を組織化して、情報雑誌にっけたアンケート用紙で答えさせ、彼女たちの本音ベースの消費性向を探るというニュービジネスで売り出した。当時、マスコミに大きく取り上げられ話題になった。

この事業を母体にして九一年五月設立したのがスーパー・ステージだ。事業は出版、テレマーケティング、データ入力代行が三本柱。出版事業はコンビニエンスストアなどで発行している料理献立などの冊子の編集・制作・印刷。テレマーケティング事業はホテルやクラブと提携して、会員の誕生日にお祝いコールを女性オペレーターがするといった、きめの細かいサービスを売り物にしている。ホテルやクラブの会員が、こうした働きかけで、同じ商業施設を繰り返し利用することを狙ったニュービジネスだ。データ入力は新聞社、広告会社、情報会社などを顧客とするデータ入力の代行業務である。

スーパー・ステージの二〇〇〇年三月期の売上局は八十七億円、経常利益四億八千万円。株主も豪華だ。筆頭株主は黒木正博だが、朝日生命保険、あさひ銀事業投資、伊藤忠ファイナンス、住銀インベストメント、興銀インベストメント、富士銀キャピタル、大和企業投資など有名金融機関系のベンチャーキャピタルが軒並み出資している。会社を設立して十年も経たないのに、これだけの業績をあげているのだから、なかなかのヤリ手といえよう。遅くとも、二〇〇二年までに店頭公開を目指す、という。表舞台に登場する黒木は、典型的なベンチャー起業家のコースを歩んできたわけだ。