反社会的勢力との関係があれば本契約は無効

公募価格三百万円の二倍を超える六百十万円の初値を付けたというのだから驚きだ。IT関連というだけで、株価はどんどん上昇し、二〇〇〇年二月四日には千二百二十一万円と上場以来の高値を更新した。赤字でも、実績がなくても上場できる、を謳い文句にするマザーズならではの珍現象だ。ネットバブルの極みというほかはない。リキッド社は、スタートから黒い噂に包まれていた。主幹事証券の日興証券が『公開準備契約書』に「反社会的勢力との関係があれば本契約は無効」とする旨の特別条項を追加したことから大騒ぎになった。

ある市場関係者は語る。「リキッド社の幹事証券は目まぐるしくかわった。主幹事候補と見なされていた野村証券大和証券は降りて、日興にお鉢が回ってきた。日興の子会社の日興ソロモンースミスーバーニー証券は大反対だったが、リキッド社との交渉が引き返せない段階まできていたので渋々幹事を引き受けたのだそうだ。その代わり、保険の意味で『反社会的な勢力との関係が判明したら、幹事証券を降りる』との一項を入れた」

リキッド社がめでたく上場を果たしたお披露目の席に、場違いな人物が登場したことによって選一い噂に拍車がかかった。この人物はいったい何者なのか。リムジンで乗りつけたのは東京・赤坂に事務所を構える「店頭銘柄の化粧品訪問販売会社やパチスロメーカーの『サミー』の大株主です。政界・経済界を結ぶフィクサーとして知られています」(市場関係者)Aはパチスロ業界では特に有名だというが、フィクサーベンチャー企業の組み合わせは似つかわしくない。

設立からわずか一年五ヵ月でスピード上場を果たしたリキッド社の社長・大神田正文三一は山梨県出身の学生起業家だ。東京大学工学部在学中(三年生)の九〇年三月、アルバイト先の塾の経営者と一緒に「フューチャーキッスジャパン」を設立。米企業と提携して子供向けパソコンスクールのフランチャイズ事業を起こした。学生と財務担当役員の二足のわらじだったが「卒論を二週間で書き上げ」(本人)て九一年に卒業した。

しかし、バブル崩壊で事業は挫折。身売りを余儀なくされた。浪々の身の時、最近、神がかりの気味のある著名な経営コンサルタントの紹介で出会ったのが、リキッド社の大株主でテレマーケティングを行うスーパー・ステージ社長の黒木正博(三四)である。大神田は九四年八月、スーパー・ステージに入社。社長室長に就任した彼は黒木とともに二年間、米・リキッドオーディオーインクと交渉して新会社の設立にこぎつけた。そしてマザーズ上場直前の九九年十一月、大神田は黒木の後釜として同社の社長に就任した。